「試し書き」から見えるもの
文具屋さんの筆記具売り場にはよく白い紙が置かれていますね。
いわゆる「試し書き」ですね。
みなさんは何を書きますか?
私は自分の文字にあまり自信がないので、普通は波線のような図形を描きます。それに誰が見るかも分からないという不安から、プライバシーに関わることは危険かも、と思ってしまいます。
それにこの紙が半永久的に保存されてしまったら、という心配もあります。
そう。実際に収集して分析している人がいました。
『「試し書き」から見えた世界』(寺井広樹著)という本です。
その「試し書き」から、お国柄がハッキリ現れるというのです。
少し例を挙げます。
ベルギー:明るくマイペース。
スペイン:陽気で奔放な「グルグル線」。
エジプト:不思議できれいなアラビア書道。
インド:ゼロを発見した国なので、計算がいっぱい。
中国:後ろ向きの言葉がいっぱい、情報統制へのうさはらし?
興味深いのは、書かれた内容だけではありません。
日本人は、他の人が書いた線の上には、できるだけ書かない、ということです。ここには日本人の潔癖症や人の邪魔をしてはいけないという心情が働いているのでしょう。
他の国では、前の人が書いた絵に書き足していくというアートのような共同作業などもあるようです。
そもそも「試し書き」の目的は、その筆記具の書き味を試すということにあります。でも、ただ「インクを出す」だけでは面白くない、と考えるのが人間の人間たる所以です。つまり、人は「機能の確認」だけでは飽き足らず、「ついで」に「何か」を付け足してしまうのです。この「ついで」というのは、じっくり時間をかけることのない状況ですから、その人の教養が表現されることはなく、素直な人柄や感性や感情がフッと出てしまうのです。これは意外と怖いことです。会社の採用に当たってよくやる「適性検査」も嘘がバレる可能性がありますが、「試し書き」はもっと「素」が出ます。
また、この「ついで」というのは、とても人間らしい行為です。一つの目的が達成されれば良いものの、人はついつい別のこともやってしまうわけです。それはある意味、創造性の源なのかも知れません。
パソコンやスマホが普及してから、人は筆を持つことが少なくなりました。今後、「試し書き」の機会は実は貴重な時間になるのかも知れません…。