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「考え方」を変えたら、楽しくなる

曖昧さの豊かさ

新聞のデジタル版に、作家の小川洋子さんが自分の作品「ことり」を使った入試問題(「国語」東北大)を解いてもらうという記事があった。
架空の話に登場する人物の心情を説明するわけだが、正解などもとよりない。そして、小川さんの解答と予備校の解答例が示される。そこで気づいたのは、予備校の解答例の方が人物の心情をより詳しく表現していることだ。一方、作者である小川さんの解答例はどことなく叙情的であいまいさが残っている。
この違いは小説の中のことばが何を伝えようとしているのかについての理解だ。予備校の例はあくまで小説の一節を手掛かりにあらゆる情報をあつめて整理したものだ。小川さんは解答例にすら、余白が残ってしまっている。
そもそも小説は何かの情報を伝えるために書かれてはいない。つまり「非情報的」なものを感じてもらい、読者が世界を広げていければいいだけだろう。
その意味で入試に小説を使うのは情報を読み取る作業としては不適なのだろう。ただ、小川さんの度量は広い。入試問題に採用されたことを問われ、「曖昧さに耐えつつ、答えとして何かを絞り出す。言葉に対する信頼や執念を問うのが、小説の入試問題」だと答えている。受験生が短時間でそこに到達するのは難しかろう。しかし、小川さんは言う、この問題で登場人物に心を寄せたこと、「その体験が何らかの形で記憶に残ってほしい」と。
小説のちからを信じる者の言葉である。